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ハドソン研究所
ハーマン・カーン賞受賞に際し

9/25/2013

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  • abeshinzou

ハドソン研究所2013年ハーマン・カーン賞受賞に際し
日本国総理大臣 安倍晋三
2013年9月25日(水) ピエール・ホテル(ニューヨーク)

 スクーターありがとう、ケンも、ご友人の皆様、スターン会長も、とても嬉しく存じます。

 本当にありがとうございます。

 この賞は、レーガン大統領が受賞しておいでです。ほかにも、チェイニー副大統領、それからキッシンジャー、シュルツの、お二人の元国務長官、挙げていくとリストは長くなります。

 そして本日、みなさまがたは私を、外国人で初めての受賞者にしてくださいました。こんなにありがたいことはありません。

 早くも1960年代に日本の台頭を予見したのがハーマン・カーンでした。彼がもしまだ生きていて、今日の日本を見たとしたらなんと言ったでしょうか。

 日本人はもう一度、いつも太陽の方を向くひまわりみたいになったとそう言ったでしょうか。

 そうであったらと私は思います。私は日本経済の再活性化に努めております。そうすることによって、日本人に未来に対するある種の楽観を取り戻したい。そう思うからです。ですからこそ、2020年オリンピック大会が東京へ来るんだと決まった時、われわれみな、それは大いに喜んだわけです。

 長引いた不況は日本経済を小さくしました。喪失した経済の規模たるや、アルゼンチン一国を上回りさえするものでした。

 多くの若者たちが希望を諦め始め、多数の日本国民もまた、将来自分たちの暮らしは悪くなっていくだろう、そう思い始めていたのです。

 日本が小さい国だったなら、こういったことは、大きな問題にはならなかったかもしれません。しかし日本は小さくない。日本経済は、それでもまだ、ドイツと英国を合わせたより大きいのです。

 実は日本で、総理を二度務めた人物はほとんどおりません。しかし、経済の惨状たるや余りに深刻で、私は有権者に再度選ばれるに至ったのです。

 ならば私にとって第一の、何にも優先する課題とは、経済の再建にはほかなりません。

 まず日本人の中にあった内向きの心理を、思い切ってもう少し大胆になってもらうよう勇気付けるため、いわゆる第一の矢として射込んだ。それは、これまで前例のなかった金融政策でした。

 次に、財政の健全化と成長の促進の間で正しい均衡を取るために、第二の矢として柔軟な財政政策を打ちました。

 そしてまさしく今われわれが射込んでいる第三の矢は、アンクル・サム、あなたを必要としています。なんとなればそれは、日本を外国からの投資に対し一層開こうとするものだからです。

 いよいよ私はまさしくみなさんの投資、みなさんの知見を得て成果を挙げなくてはなりません。求めているのはみなさんの日本の将来に対するコミットメントです。丘の上、輝く街のような、通商と創造がさきわう自由の港を擁す国、それが日本です…。ちょっと、レーガン口調にしてみました。

 これからのインド・太平洋の世紀を、日本と米国は一緒になって引っ張っていくべきであると私は信じております。目指すのは、自由、民主主義、人権、そしてルールに基づく秩序を尊ぶ世紀です。TPPとは、その背骨をなすものです。

 だからこそ、私はTPPの交渉に参加しなくてはならないのだと決意をしたのです。

 さて本日、みなさんに喜んでお伝えしたいのは、私の射込んだ三本の矢が、具体的成果に結実しつつあるということです。

 昨年の第三四半期、日本経済は3.6%のマイナス成長でした。しかし私の新しい政策によって、今年は第一四半期、4.1%の成長、第二四半期には、3.8%のプラス成長となったのです。

 ここで安全保障の問題に話題を転じたいと思います。

 問われているのは次のようなこと、すなわち、いまや脅威がボーダーレスとなったこの世界で、日本はきちんと役割を担うことができるかという問題です。

 具体例でお話します。

 第一の例は国連PKOの現場です。日本の自衛隊が別の国、X国の軍隊と踵を接して活動していたとします。

 そこで突然X軍が攻撃にさらされるという事態が起きました。X軍は近くに駐屯する日本の部隊に助けを求めます。

 しかしながら日本の部隊は助けることができません。日本国憲法の現行解釈によると、ここでX軍を助けることは憲法違反になるからです。

 もうひとつの例。今度は公海上です。

 日本近海に米海軍のイージス艦数隻が展開し、日本のイージス艦と協力してあり得べきミサイル発射に備えているとします。

 これらの艦船はそのもてる能力をミサイル防衛へ集中させるあまり、空からの攻撃に対してはかえって脆弱になっていたと、そういうケースです。

 そこへもってきて突然、米イージス艦1隻が航空機による攻撃を受けたとします。

 またしても日本の艦船は、たとえどれだけ能力があったとしても、米艦を助けることができません。なぜならば、もし助けるとそれは集団的自衛権の行使となり、現行憲法解釈によると違憲になってしまうからなのです。

 まさにこういった問題にいかに処すべきか、わたしたちはいま真剣に検討しております。

 いまの時代、すべてがつながっています。ネットワークから外れるものは何もありません。宇宙に国境なし。化学兵器は国境を越えて行きます。

 私の国はそんな中、鎖の強度を左右してしまう弱い一環であることなどできません。

 ご参集の皆様、ですからこそ私は、日本経済の再建に一所懸命に努力しつつ、同時にわが国安全保障の仕組みを新たなるものにしようと、やはり懸命に働いているわけです。

 日本は全く初めてのこととして、国家安全保障会議(NSC)を設立します。

 同じくまったく初めてのこととして、我が国は国家安全保障戦略を公にします。日本が大切にしているものとはいったい何で、日本の目指すところは何かということをそこでは記すこととなるでしょう。

 そして本年、我が政府は実に11年ぶりに防衛費を増額しました。

 いったいどれだけとお知りになりたいでしょう。

 でもその前に、日本のすぐ隣には、軍事支出が少なくとも日本の2倍で、米国に次いで世界第2位という国があります。

 この国の軍事支出の伸びを見ますと、もともと極めて透明性が低いのですが、毎年10%以上の伸びを、1989年以来20年以上続けてきています。

 さてその上で、私の政府が防衛予算をいくら増額したかというと、たったの0.8%に過ぎないのです。

 従って、もし皆様が私を右翼の軍国主義者とお呼びになりたいのであれば、どうぞそうお呼びいただきたいものであります。

 まとめとして言うならば、日本という国は米国が主たる役割を務める地域的、そしてグローバルな安全保障の枠組みにおいて、鎖の強さを決定づけてしまう弱い環であってはならないということです。

 日本は世界の中で最も成熟した民主主義国の一つなのだから、世界の厚生と安全保障にネット(差し引き)の貢献者でなくてはならないということです。

 日本はそういう国になります。日本は地域の、そして世界の平和と安定に、いままでにも増してより積極的に貢献していく国になります。

 みなさま、私は私の愛する国を積極的平和主義の国にしようと決意しています。

 いまや私にはわかりました。私に与えられた歴史的使命とは、まずは日本に再び活力を与えること、日本人にもっと前向きになるよう励ますこと、そうすることによって、積極的平和主義のための旗の誇らしい担い手となるよう、促していくことなのだと思います。

 そして、みなさまが私にこの賞を下さった理由も、いま判りました。これはいかにもカーン的ではないでしょうか。受賞者に成り代わって受賞者の先行きはかくなると見通し、それで受賞者を励ますわけであります。

 本当にありがとうございました。